【書評】幡野広志『だいたい人間関係で悩まされる』 人の悩みのほとんどは対人関係。他人の悩み相談を盗み見て、自分の悩み解決に役立てよう

「地獄への道は善意で舗装されている」ということわざもあります。ぼくは、そういう行いを「優しい虐待」って呼んでいます。

幡野広志『だいたい人間関係で悩まされる』幻冬舎 P235より引用

今回は、幡野広志さんの『だいたい人間関係で悩まされる』を紹介します。

皆さんは、「人間関係でいつも悩んでいる」「いろんな人が、バラバラなことを言ってて何をあてにすればいいのか分からない」

こんな風に思っているかもしれません。

驚くかもしれませんが、それが普通です。心理学者のアドラーは「すべての悩みは対人関係から来ている」といいました。人間関係で悩むのは、至極普通のことです。あなたの悩みの種の「あの人」も、人間関係で悩んでいます。

人によって悩みの解決方法は違いますので、人によってアドバイスが変わるのは当然です。だからといって、他人の話は当てにならないわけではありません。悩みの正解は1つではありません。2つ以上の場合もあれば、1つもない場合もあります。解決することが正解な場合もあれば、心が落ち着くことが正解の場合もあります。もちろん、有識者のアドバイスが間違っていることもあります。そのアドバイスが不正解であっても得たアドバイスは、次に同じような悩みにぶつかったときの正解になりえます。他人のアドバイスをその通りに実行するかは別ですが、知識として知っておくだけで、自分の「判断の手札」になります。また、似たような悩みの場合、自分の悩みにそのまま使うのではなく、応用して答えを導くこともできます。悩みをミクロで捉えずに、広い視点・マクロの視点で考えて自分の悩みに応用できます。

『だいたい人間関係で悩まされる』とは?

写真家の幡野広志さんが書かれた悩み相談本で、ウェブメディア「cakes」で連載されていたコラム「幡野広志の、なんで僕に聞くんだろう。」を加筆修正したものです。幡野さんは元狩猟家で、2016年に長男が生まれ、2017年に血液がんの1つである「多発性骨髄腫」を発症しました。写真家として独立されて数年、悩みも多いなかでの余命宣告でした。ずっと書かれていたブログの、がんになって悩んでいる投稿が糸井重里さんの目に留まりました。そこから、糸井さんとのプロジェクトが始まり、cakesの連載に繋がります。

『だいたい人間関係で悩まされる』のあらすじ

cakesで連載されていた「幡野広志の、なんで僕に聞くんだろう。」を加筆修正したもので、1つの悩みに1つの回答がワンセットです。悩みに関連や連続性はなく、質問者もバラバラです。シリーズとして3冊、紙の本が出版されていますが「この巻には恋愛相談ばかり載っている」みたいなことはありません。重めの相談からライトなものまで載っています。

人間の悩みのほとんどは、人間関係

皆さん、悩みはありますか?今、思い浮かべてみてください。どんな些細なことでも大丈夫です。

「上司とうまくいかない」「恋人と喧嘩ばかり」「お金がない・収入をあげたい」「もっとイケメン・美人になりたい」

恐らく、こういう悩みが多いと思います。強引な言い方ですが、これらはすべて「人間関係」の悩みです。上司、恋人はストレートな人間関係の悩みですね。自分の身体・見た目に関しても、人間関係の悩みです。なぜなら見た目を改善したい理由は、異性(同性にも)モテたいから、人気者になりたいからではありませんか。「〇〇さんと比べて、私は××だから、もっと□□なりたい」というのが、本音です。収入を上げたいのも、他人と比較して自分の給料が低いから上げたいんですよね。SNSで成功者の日常を見ると、自分のわびしい生活が納得できなくなる。「金持ちはこんな生活しているのか」と思えば思うほど、自分の収入を改善したくなるわけです。強引に感じるかもしれませんが、これも立派な人間関係の悩みです。比較する人がいなければ、そもそも収入について悩みません。

悩みの解決方法は3種類しかない

悩みの解決方法は3種類しかありません。

1.話し合って、原因を解きほぐす。

2.付き合いをやめる。

3.気にしない。

この3つです。

1の「話し合って原因を解きほぐす」は、相手とよく話し合って、お互いが思っていることを理解しあい納得・誤解を解くことです。絶対にゆずれない問題や、親族など自分では変えられない相手の場合に有効です。
自分の気持ちを手紙にして、話し合いの場で読み上げましょう。話し合いでは感情が高ぶって喧嘩になることも多いので、不必要な発言をしないように言いたいことだけを手紙に書きましょう。

2の付き合いをやめる。これは根本の解決にはなっていませんが、最初にお伝えした通り、悩みの根本は他人との比較です。比較相手を遠ざければ、必然的に悩みは消えます。

具体的な行動ですが、新しいコミュニティを探してください。転職サイトへの登録や資格の取得・勉強に時間を割きましょう。

3の気にしない。これも根本の解決にはなっていませんが、最も有効的で現実的な手段です。相手が上司や同僚だと、転職しない限り付き合いもやめられません。もう気にしないしかありません。平常心が大切なので、心理学の勉強・マインド系の本を読んでください。

冷静に考えれば、これらはすぐにわかることですが、いざ悩みが目の前にあると脳が働かなくなってどうしていいか分からなくなります。いったん落ち着いて、今後どうしていきたいかを考え、行動を決めてください。

人の悩みから学べることは多い。

大学の教授から講義中に言われた言葉です。
「分からないときは、恥ずかしがらずに質問してください。あなたが分からないということは、たいていの場合、他にも結構分からない人がいます。分からないのはあなただけではありません」

「人って悩みとか疑問って同じところで持つんだな」と思いました。実際、本書を読んでみると、どこにでもありそうな悩みがほとんどです。宗教にはまった親の話、恋人に多くを求めすぎてイライラしてしまう話、モテたいけどどうしたってモテない話、子供が過干渉な親をうざったく思う話、子供が心配で過保護になってしまう話など。正直、失礼ですけどありきたりですよね。人間の悩みって、ありきたりなんです。つまり、他人の相談とアドバイスをセットで知れば、自分の悩みに応用できる可能性が高いということです。

この世の90%以上のことは、良くも悪くもないこと

誰も良くないし、誰も悪くない。その日の機嫌やしゃべり方、受け取り方次第で、ネガティブに受け取ったり、ポジティブに受け取ったりするものです。しかし多くの場合、相手に悪気はありません。間違いなく、自分もそういったことをしています。決定敵な悪の場合は、あなたは悪いと言えばいいですが、悪気がない人を責めるのはどうですか。怒ると叱るは違います。怒るは感情に任せることですが、叱るは注意です。別に声を荒らげる必要も、犯人捜しをする必要もありません。「良くないよ」と言えばいいだけです。人間は賢いので、何度か繰り返すうちに学習します。ただ、良い方は強調して褒める方がいいでしょう。電車で席を譲る行為はキツメに言えば、別にいい行為ではありません。普通です。けど、褒められると気分がいいし、席を譲る人も増えます。悪い方は、別に言わなくてもよいでしょう。どちらも気分が悪くなります。

『だいたい人間関係で悩まされる』で気に入ったフレーズ

いくつか載っている悩みと回答を紹介します。
男子大学生からの悩みで、「ギター、歌、ファッション、料理等々を続けてきたけどモテない」
回答では頭に、「女に興味ないんだよね」「俺がモテないのは女が悪い」と、ごまかしたり他人のせいにする男よりよっぽど素直で感じが良いと書かれてました。いいですね。悩み相談の回答は、本丸の答え以外にもためになることが書いてあります。今回の場合、素直になれってことですよ。本丸の回答は、料理教室に行けばいいんじゃない?でした。生徒は女性ばかりだし。ただ、料理教室で女性と雑談するときに、料理の話はするなと書いてあります。

「人は知らないことを知った時に面白いと感じるの。料理教室では、学校で勉強していることや読書や筋トレの話をするの。逆に大学では料理教室の話をするの」
幡野広志『だいたい人間関係で悩まされる』幻冬舎 P117より引用

「モテたい」という気配を消しなさい。モテるために始めたことは、どんな動機であれいづれ役に立つから無理のない範囲で続けなさいとか、料理教室には恋人や結婚している人がいるだろうけど、絶対浮気や不倫はやめなさい。あれは恋愛上級者ではなく人生上級者がすることだ、とか。
かなり本質を突いた回答だと思います。

他には、精神疾患を持っている人からの相談で、
「恋人に「好きだけど疲れた。別れたくはないけど、どうしよう」と言われた。私は相手のことが好きだけど、そんな大変な思いをさせるのは嫌だから、別れました。けど後悔しています。私はどうすればよかったのでしょうか」
という相談がありました。相手のことを思って、こちらが身を切ることは誰でもあることではないですか。それが相手に伝わって、お互い膠着状態になってしまうことも人間関係では珍しいことではありません。

回答は「恋人は思ったことをすぐ言っちゃうデリカシーのない人だから、あなたの精神疾患が治ったとしても、一緒にいるのは疲れるんじゃないでしょうか」というものでした。また、同時に恋人のことも心配しています。

「人ががんばれるのって、終わりの見えている短期間だけだよ」
幡野広志『だいたい人間関係で悩まされる』幻冬舎 P218より引用

精神疾患は終わりが見えないし、ましてや自分のことではないから実際どういう病状なのかも分からない。相手は疲れて当然だよ、と。
幡野さんの良さは、「回答だけを伝えないこと」です。毎回、自分のエピソードを絡めて、質問者に考えさせます。

感想・まとめ

幡野さんの言葉遣いが優しくて綺麗なので、スラスラ読めました。大きな悩みがなく、特に目的もなく読みましたが、ためになることがたくさんありました。

『だいたい人間関係で悩まされる』を読んだ方がいい人

実際に具体的な悩みがある人はもちろん、あいまいな人間関係の悩みがある人もおススメです。「人の悩み相談なのに、自分の悩みに役立つの?」と思われるかと思いますが、先ほど言った通り、悩みはだいたい共通しています。こちらが取れる行動、解決策も限りがあります。多く見積もっても、10パターン以下でしょう。悩みの共通点を見つけ出して、共感して、自分なりの答えを導いてください。

著者・本の詳細

著者:幡野広志(写真家、元狩猟家、多発性骨髄腫患者)
出版年:2023/1/25
出版社:幻冬舎

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